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2021年3月14日 アジアに生きる 挑戦しつづける者たち 「楽園の湖に生きる」

毎年秋、ドキュメンタリーの海外共同制作を支援する国際イベントTokyo Docsが開催される。その中に、アジアの作り手から提案された企画を日本のプロダクションと組んで一つの番組にする”Colors of Asia”というプロジェクトがある。本作品は、テムジンがタイのプロダクション「TV Brabha」と協力し、去年の選考を経て完成した。コロナ禍によって制作が遅れる中、なんとか放送に至った。

タイ語で「小さな海」を意味する東南アジア最大の淡水湖のひとつターレ・ノイ。貴重な生物多様性の宝庫で、ラムサール条約で保護された広大な湿地帯だ。蓮の花が咲き乱れ、野鳥が乱舞するこの美しい楽園で、稼業に誇りをもって生きる人たちがいる。

水牛農家のプン(65)は、この湖で代々水牛を放牧してきた。小舟を巧みに操り、乾季になると天然の牧草地で放牧し、雨季には洪水や病気から水牛たちを守りながら育てている。自然と共存するこの畜産方式はFAO(国連農業食糧機関)により世界農業遺産への登録も進む。しかし近年、食の多様化で肉の需要が減り、水牛の売れ行きは減りつつある。また、環境の変化により汽水域のターレ・ノイ湖に海水が増え、牧草も育ちにくくなってきた。そして、後継の問題もある。子供がみな女性で跡を継がせられず、水牛の放牧はプンの代で終わる可能性もある。そんな中、甥と娘婿がポンの仕事を受け継ごうと懸命に手伝う。

番組は、タイ南部の伝統的な水牛農家の日常を叙情的に描きながら、放牧を続ける年老いたプンと、それを支える若い2人の挑戦を追う。水牛の群れが泳ぐ雄大な光景、どこまでも美しい湖を舞台に、自然と共に暮らす人の営みや、生きる術を模索して葛藤する家族の姿を浮かび上がらせる。